“難しい気持ち”
    『恋愛幸福論で10のお題 Vol.7』 より

       〜 Little Angel・Pretty devil 別のお話より
 


 秋はスポーツのシーズンで。特に特に、このお部屋ではもうもう耳にタコ焼きなほど言っておりますが、高校アメフトも大学アメフトも、その本戦となるトーナメント戦なりリーグ戦なりは、秋にこそ その乱戦への幕が切って落とされる。高校アメフトでは、春の大会では関東・関西の雄を決めるのみという、つまりは“地方大会”止まりだったそれが。秋の大会では その先の、全国大会へつながるトーナメントが開催される。関東・関西の優勝チームが激突する頂上決戦こそが、フットボウラーの夢“クリスマスボウル”だというわけで。大学アメフトでも、各リーグの順位決定戦となるのは秋のリーグ戦の方。そこでの星取りで順位が決まり、トップリーグなら、東西戦への代表が決まるし、下部リーグなら下部リーグで、上のリーグの最下位チームとの入れ替え戦へ進めるとあって。真夏にどれほどの鍛練を積んだか、どんな調整をしたかの集大成、ここでこそ発揮せよとばかりの、激戦の幕開けとなるのだが……。




 これもくどいようだが、アメフトというのは、そうそう連日こなせるスポーツじゃあない。サッカーやラグビーと同じで、体力の消耗の度合いは 例えば野球との比じゃあなく。スタジアムや審判を揃える都合もあってのこと、公式戦は週末や祭日にと構えられている。その本番に備え、ウイークデイはひたすら地道な練習を積み、試合前日には調整のクールダウンをしいて…と。そういう段取りだってこと、高校時代からの恒例だったのだから、ほぼ毎週末、試合に追われる日程となるのは先刻承知であろうに、

 【Trrrrr,trrrrrr, (かちゃ)
  ヨウイチです。
  ただ今、よい子のお悩み相談室開催のため、電話に出られません。
  御用とお急ぎの方は、
  ぴーという発信音の後にメッセージをお残し下さい。
  ではまた。(ぴー)】

 四角四面な言いようのようにも聞こえるが、微妙にふざけた物言いも混じったメッセージ。別に伝言なんざはないよと、発信音の半ばで切った葉柱だったが、口許は曲げたまんまにて。大きな手の中だと、よりコンパクトに見えるモバイルを、無言のまんまに見下ろした。

 「…う〜ん。」

 秋になったらいよいよの本番。気ィ引き締めてかかれよと、誰よりも熱く、かつシビアに宣言しとったのは、

 “何処の どどいつなんだかな。”

 ワンアクションで ぱたくりと、二ツ折りの携帯を閉じながら、やれやれというお顔になった、賊徒学園大学部、フリル・ド・リザードの二回生キャプテン様であり。

 「何なに、坊やったら電話に出ないの?」

 スポーツドリンクやタオルにおしぼり、ストップウォッチにホイッスル各種。大人数をポジション別に振り分けて、それぞれのシフト練習に入る皆様へと向け。サポート態勢準備中の女子マネらを率いるメグさんが、ベンチの脇で…眉間へコイル巻いて複雑そうなお顔でいる葉柱へ、そんなお声をかけており。

 「ああ。
  ま、今日はサーキットトレーニング中心だから構やしねぇが。」

 いやいやいや、日頃だって何もあのヤロに頼ってるとかいうこたねぇんだしよと、訊いてないことまでも口走っているキャプテン様。誤魔化し半分にフィールドへと足早に向かってく、がっつりと頼もしい背中を見送りながら、

 “コーチとしてのお仕事は休んでもいいとして。
  ルイへのビタミンとして、不可欠な坊やですもんねぇ。”

 坊やの方だって、まんざらじゃあないどころか、

 “好き好きとそりゃあ判りやすくも懐いているくせに。”

 年の差なんて何するものぞと、出会ったころは高校生、今や大学生となった無頼の男どもを、だってのに一度として怖がりもしなかった恐るべき悪魔っ子。それもまたプライドの高さが由縁してか、主将にして“族”の頭目でもあった葉柱へも、他の連中と同じような扱い、対等かそれ以下だと言わんばかりの態度で接していたけれど。そこはこちらも洞察鋭いメグさんだけに、

 “あの程度のツンデレ、見破れなくてどうするかってのよ♪”

 何をまた、やらかしての来られないんだか。さっさと片付けて早いめに来てくんないと、一緒でなかった日が挟まると、その分の穴埋め、練習前の構え構えが少々しつこくなってしまう彼らであり。自分にとっては微笑ましい程度のものじゃあるが、他の面子にゃそうはいかない。微妙に士気にもかかわるだけに、とっとと戻って来ておくれと。怖いもの知らずな女帝にまで請われてる、お騒がせツンツン坊やはどこで何をしていたかと言えば…。




     ◇◇◇



 「あのねあのね、
  セナはただ、進さんにおんぶしてほしいだけなのにぃ。」
 「…………ほほぉ。」

 ホントは小学生が寄り道しちゃあいけないんだのに。小学生どころか高校生の頃だって、マックにさえ寄り道したことがなかった筆者とは大違い、スタバの流行からこういうタイプのスタンドバーが増えました的、全面ガラス張りのカフェの片隅。観葉植物の鉢の狭間の、二人向かい合って掛けられる席につき。それぞれの飲み物を前にして、片やはふにゅにゅんと肩落とし、片やはふむふむと鷹揚に頷いている、小さな小学生が二人ほど。店内にはボサノバっぽい楽調が軽快な、ジャズの名盤“イパネマの娘”がかかっており。客の少なさもあって、店の雰囲気がちょっとしたキッチン・ダウナー風になっているほど。お、なかなか渋いじゃんと視線を上げかけたところへと、やっとのこと口を割った、同級生のおチビさん。新学期が始まってからこっち、そりゃあ判りやすくも“何をか飲み下せてません”というお顔でいたのが気になって、それでとあれこれ探りを入れてみても、こたびはなかなか口を割らなかったもんだから。人目を絞りまくったというシチュエーションへと誘
(いざな)ったのが、何とか功を奏したようだが。

 「…おんぶ。」
 「うん、おんぶ。//////」

 一度でも口にしちゃうと後はもうもう抵抗もなくなるものなのか。ふんわりした生地のデザインシャツも愛らしく、サスペンダーで吊ったカッコの、チェックの半ズボンから伸びる、真白なお膝へ乗っけてた、小さなお手々をテーブルの上へととんと突き、

 「このごろはもう、セナもお外での抱っこは恥ずかしいから。」

 さすがに背丈も伸びたおチビさん。小学4年生だもの、ちょっと寛ぐときなんぞにお膝に抱っこされるのはともかく、お外での移動って時に“ほれ”と抱っこされてってのは、そろそろ抵抗も出てくるもんで。でもでもあのね? お手々つなぐだけじゃあ、進さんが屈まなきゃならなくて大変だしで。

 「迷子になったらどうするって進さんが言うから、」

 それじゃあ おんぶがいいって、ちょこっと恥ずかしかったけど、えいって頑張って言ったのに。

 「進の野郎は、いい顔しねぇってか。」
 「……はいです。」

 そしたらあのね、こないだ観てた時代劇でね、お侍さんは背中に油断しないんだぞってゆってたの。

 「だから進さんも、背中は空けておきたいのかなって。」
 「その前に。
  進は侍じゃあなくてアメフトのラインバッカーだろうが。」

 後ろから来る敵を察知してどうこうってんじゃなく、自分が向かってって掴みかかるポジションだぞと。まずはの訂正をして差し上げてから、

 “…まあ、雰囲気は 融通の利かねぇどっかの道場師範みてぇだが。”

 こらこら。
(苦笑) まとまりの悪そうな、だが、ふわふかなクセっ毛の乗った頭を微妙にうつむかせ、どこか神妙なお顔でいるセナにしてみれば、とっても深刻なお話なのだろうが。

 “おんぶねぇ…。”

 そのくらいのことでそこまで思い詰めるもんかねと。小悪魔様の方としては、何とも言い難いお顔になってしまうというもの。

“俺なら 嫌がっても構わないとばかり、強引にかかってやるけどな。ああでも、ルイは嫌がったことねぇからな。さすがに足元からよじ登ったときはこらこらという抵抗もしやがったけれど。”

 そんな風に“自分だったら”というのを想起してから、

 「大体、あの進の背中って、
  もしかして凄い垂直なまんまの断崖絶壁なんじゃねぇのか?」

 いつだって凛々しく胸を張ってる、そりゃあ雄々しいお兄さんという印象が強く。筆者なぞ、オード○ーの春日くんが、重なってしょうがない今日このごろ。
(おいおい) セナくんが乗っかったくらいじゃあ、さしたる負荷にもならないだろから、その上背がしがみつきやすく傾いてくれるとも思えないから……、

 「あ、そっか。」
 「ぴんぽ〜ん。」

 まだ何も言ってはないのに、正解で〜すとの意味合い込めたものだったらしき“ピンポン”のお声がしたもんだから。あまりのタイミングのよさに、うあ びっくりしたとドッキリしちゃったヨウイチくんへ、

 「ああ、ごめんごめん。」

 形のいい眉をちょみっと下げて見せたのは。彼もまた王城大学へと進学した、アイドル・ワイドレシーバー、桜庭さんじゃあありませんか。少しずつ涼しくなって来た陽気に合わせての、渋緑の麻のジャケットが、相変わらずの長身にお似合いの、そりゃあ人目を引く美丈夫だけれど。街中なんぞじゃあ案外と、さほど取り囲まれることもないのが、さすがは東京。カウンター内の女性店員たちのさりげない視線を躱しつつ、小さな二人の傍らまでへと歩み寄り、

 「進が、今日は電話が通じないって心配してたぞ? セナくん。」
 「…うっとぉ。」

 だってあのあの、蛭魔くんに相談のお話ししてたんだもの、と。いじいじとうつむいちゃった愛らしい坊やへ、くすすと微笑みを深くして、
「まあ、あのやりとり以降、セナくんがちょこっと元気がなくなってたからさ。
 こんなこっちゃないかという予測はあったんだけれども。」
 さすがは、人の機微にも聡い、気配りアイドルさんである。…つか、こういう対人関係環境下じゃあ、そっちに磨きがかかりもしますかね。
(苦笑)

 「じゃあ、やっぱ進の野郎は。」
 「そ。ヨウちゃんがピンと来たその通り、
  とっても軽くて小さなセナくんだから、
  おんぶしちゃうとその気配をうっかり忘れやしないかって、
  心配しちゃってるわけ。」

 いくら大切な人であれ、自分は何につけても大雑把だから…なんて。やっと自覚をしたものか、そんな言いようをしていてね。うふふんと微笑って多くは語らぬ桜庭さんだったけれど、

 「あやや。///////

 大切な人とのご指摘受けちゃったと、セナくんが真っ赤になった傍らで、小悪魔さまが砂を吐きたそうなお顔になったのは言うまでもなかったり。そっか、じゃあセナが嫌いだとかくっつかれるのいやいやって思って“おんぶはダメよ”ってゆってた進さんじゃなかったんだ。そんなことがあるワケないでしょう? 桜庭さんの念押しに、お顔がほころび始めたセナくん、何とか気持ちが浮上した様子であり、それに関しちゃあよかったよかっただったけれど。

 「………なあなあ桜庭。」
 「?? なぁに?」

 俺としちゃあ、背中を意識し過ぎで足元不如意になった進が、おっととおととと転びかけての手をつきまくり、あちこち破壊して回らんかの方が不安なんだが。微妙に目許を座らせて、そんなご意見をこしょりと小声でくださった小悪魔様へ、

 「…鋭いねぇ、相変わらず。」

 あはは…と、あくまでも乾いた笑いようにて応じたアイドルさんではあったれど。そっかそういう恐れもありかと、肝に命じたその上で、胃痛になる前に善後策を練らなくちゃと何やら決意を固めたご様子。平和なんだか前途多難なんだか、今年の秋もまた、公私ともにいろいろ起きそうな気配だったり致しまし。とりあえずは…小悪魔様、こちらが解決したのなら、ご自分のダーリンの方へも 早いとこ姿見せて安心させてやってくださいませなvv


  “だっ、誰がダーリンだっ!//////////”(ヒューヒューvv)




  〜Fine〜 09.09.28.


  *何ぁんか、あっと言う間の九月だったなぁという感が否めませんで。
   そんな割に、
   何かしたぞという達成感とか充実感ってのも覚えがなくて。
   皆様は充実しておりましたか?
   シルバーウィークは楽しまれましたか?
   秋はこれからが本番ですが、
   ややこしい天候に振り回されて体調を崩されませぬよう、
   ご自愛くださいませね?

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